コラム過去ログ

【残暑お見舞い申し上げます】

 酷暑の中、受験生の皆様は地道な努力を続けておられることと思います。法律学という学問は発明や発見と違って、"突如の閃き"によってすべてが解明できたといった現象は起こりません。日々コツコツと地道に理解を積み重ねていくその意味で地味な学問だと言って良いと思います。

 一年の内、若干時間的にも心理的にも余裕のあるこの時期、つい手を抜きがちとなる憲法や刑法といった、司法書士受験ではマイナー科目だが、しかし法律学ではメジャーな科目などを手がけてみてはどうでしょうか。司法書士受験生は手を抜きがちですが、これらの科目はどこの法学部でも中心科目として設けられていることからも察せられるように、奥が非常に深い分野です。

 本番が迫ってくるとなかなか手が廻りにくいこれらの科目に、今この時期目を通しておくことはとても有意義なことだと思います。私もこの夏、あらためて本箱から刑法の本を引っ張り出し、暇を見つけて目を通したりしています。それでも読むたびに新しい発見があったり、以前の自分の考え方を再考したりすることがあって、それなりに楽しいものです。お互い猛暑を負けないで乗り切りましょう。

平成19年8月13日  江見 務


捲土重来(けんどちょうらい)・再戦をを決意した君へ

試験お疲れ様でした。一両日中は羽休めです。さて、各予備校の解答速報などで大体の得点が解った人で一次・二次共8割ラインに達している人(おおむね上位500人程度の人)と7割・8割ラインの人(1000〜1500人程居るでしょう)は、二〜三日休んだ後は口述対策に入りましょう。合格発表から口述本番までは一週間くらいしかありませんから、合否線上の人も迷わず口述対策に入った方が良いと思います。仮に不幸にして不合格となっても、この間集中的にやった「司法書士法」などの勉強が無駄になることは決してありません。

7割・7割ラインであと一歩の人。惜敗の悔しさに再戦を決意したと思います。この悔しさが来年に向けての何よりも強いバネとなります。「勝負は時の運」です。後世からからは自明のように見られがちなあの関ヶ原における東軍勝利でさえ、寝返りがなければ勝敗はどうなっていたか解らないという程きわどいものでした。次は負けるわけにはいきません。「敵を知り、己を知れば百戦して危うからず」は誰もが知る孫子の兵法ですが、敵は過去問などで比較的容易に知ることができます。来年も同じレベルで攻めて来ます。あとは「己を知」らなければなりませんが、これを一番良く知っているのは誰よりもあなた自身にほかなりません。勉強が手薄なところ、苦手意識が強かった(たとえば会社法や民事訴訟法など)ところはてき面に失点していませんか。己の弱点は自明なのです。当然のことながら、弱点の補強なしに再戦をしても再び同じ敗戦を見るのは必定です。弱点補強を中心とした学習をこれから一年の課題としましょう。

このとき重要なのは、得意科目、比較的得点できた科目も決して手を抜かないことです。年期の入った受験生はともかく、初心者は得意科目だからと言って油断するととたんに実力が下がるという特徴があります(これは実力が本当に身に付いていないからなのですが、初心者である以上已むを得ません)。得意科目の実力は維持しながら、苦手科目に比重を移した勉強が求められます。

あと300日余りしか残っていません。「敗因の分析」が済んだら直ちに再戦の準備に取りかかりましょう。来年こそはあなたに合格の順番が廻って来るに違いありません。

平成19年7月1日 江見 務


【追記】昨年度合格したN君は試験当日このサイトを見て「とても勇気づけられた」そうです。見事合格していました。今年もこの様な受験生が数多く現われることを願っています。


【強制管理と担保不動産収益執行】

1.担保不動産収益執行制度
平成15年改正担保・執行法により、抵当権者その他の担保権者が担保不動産の収益から優先弁済を受けるための担保不動産収益執行制度が認められるようになったことはみなさん周知のところです。これは、強制管理の担保権版とも言うべき制度ですから、現在不動産執行の方法には次の方法があることになります。
―― 執行の方法 債務名義
強制執行 強制競売 強制管理
担保権の実行 担保不動産競売 収益執行 不要

2.それぞれの利用状況
(1)東京地裁民事執行センター(民事第21部)における運用状況(申立件数)は概ね次に見るとおりです(なお、大阪地裁における運用状況を知りたい方は判例タイムズ1205号を参照して下さい)。
―― 平成16年 17年 18年
強制管理
収益執行 15 15

(2)乏しい利用状況と言わざるを得ませんが、それは近時の競売不動産の売却状況が影響しているようです。競売に付してもほぼ完売できる状況であるようで(平成18年は96.7%の売却率)、それなら競売に付して一挙に債権回収を図った方が債権者も裁判所も助かるという訳です。

3.受験生の対応
強制管理は時々問われます。従ってその学習も一応欠かせません。担保不動産収益執行は強制管理の規定を準用ですから(民執188)、結局、強制管理の条文(基本事項で足りるでしょう)の読み込みをしておけばよいことになります。「こんなに利用の少ない制度なのに勉強する必要があるのか・・・」。受験生はつらいものです。なお、もっと詳しく知りたいと思う人のために(別に薦めはしませんが)、金融法務事情No.1801号を紹介しておきます。私はとても興味深く読みました。

平成19年5月29日 江見 務


合否は直前3ヵ月で決まる

1.本試験の直前になりました。合否は直前の3ヵ月で決まると言っても過言ではありません。今までの勉強はこの3ヵ月の準備期間だと言ってよいでしょう。
 これまでの勉強の総まとめをやり、今までやってきた記憶と知識をこの期間に急いで戻さなければなりません。戻りきった時に本試験というのがタイムスケジュール的にはベストです。


2.基本書、条文、判例付六法の条文関連判例のチェックを丹念にやりましょう。登記法については先例チェックです。これからの3ヵ月は条文が基本書だというくらいに読み込むのが良いと思います。司法書士試験は条文の重要性が高いですから。条文を読んでその意味内容が掴めますか。それができる程度に日頃から勉強していることが必要です。


3.それらと並行して、今まで何度も繰り返しやってきた過去問集を毎日繰り返しやると良いと思います。もう丸暗記したという人も再度やりましょう。当日まで続けると本番も過去問練習と同じ感覚でやることができ、本番でのSpeed Upも自然に図れます。

 書式練習についても、今まで解いてきた書式問題を再度解いて確認しましょう。本番で類似のパターンが出れば、その年は合格の女神が貴方に微笑んでいるのです(睨み返さないように!)。

4.実力があるのに不合格だった人へ。焦って更に上へと細かい問題やマニアックな練習に走るのは考えものです(そんなもの出やしません)。行き詰まったら退屈なようでも「基本に戻る」方が良いと思います。基本的な理解を案外欠いていることがありませんか。実力者の人はこの意味が解ってもらえると思います。


5.最後に、「受験生はHungryであれ!」問題に対してはHungryで貪欲であることが大事だと思います。


平成19年4月5日
 江見


4月の新学期を迎えて

「受験勉強の順番ってあるの?


 今春から初めて受験勉強を始められる方から受けた質問です。本当は「最も効果的な勉強方法はどういう方法でしょうか」というものですが、昔から「学問に王道なし」で、これといった特効的な勉強方法がある訳ではありません(あれば皆その方法を採りますから、特に効果的ということもなくなってしまいます)。
 しかし、勉強の順序というのはあると思います。次の順序がおそらく「鉄則」といえるものでしょう。

1.まず民法。次いで不動産登記法(含む書式)

  民法はすべての法律の基本ですから、先ず民法から。

2.次に会社法→商業登記法(含む書式)

  これは科目としては別ですが、むしろ一科目と考えた方が良いでしょう。それくらい密接な関連があります。

3.民事訴訟法→民事執行法→民事保全法

4.供託法

  これはすべての法律が顔を出しますから、最後に勉強するのが良いと思います。

5.残る憲法刑法については、順序にこだわらず、どの時期に勉強しても良いでしょう。他の科目の理解を前提とすることなく、理解可能な科目だと思います。司法書士法は本番の直前で良いでしょう。勉強時間があまり取れない科目ですし、本番直前に目を通して試験に臨むというくらいしかできないでしょう。


 
以上の学習の順序は当然といえばあまりに当然なことなのですが、案外重要なことだと思われます。
 皆さんの健闘を祈ります。

平成19年3月28日 江見 務


【梅花の季節に寄せて】

今年は暖冬で一向に冬らしい感じがしません。関西でも東京でもこの冬、雪が降るのを見たことがありません。一昔前ならば今の季節、雪が積もった枝の中からしっかりと花開く梅の花が見られたりしたものです。厳しい寒さに耐えてそれでも咲こうとする梅花には、なにやら受験生のけなげな姿を連想させるものがあります。

見渡せばこの時期、どこの予備校でも「答案練習会」なるものが花盛りです。それが始まると受験戦線も臨戦態勢というところでしょう。

ところで、受験生の中には答練に振り回されて、自分の学習ペースを乱してしまう人が少なからず見受けられます。これはやや本末転倒で、予定の消化不足で本番を迎えてしまい、肝心の本試験で良い結果が得られないことがあるようです。

自分の学習スケジュールの中に答練のスケジュールがピッタリと合えば一番良いのですが、大体答練のペースは早いのが普通なので(3〜4ヶ月の間に全科目を行う)、それは初心者には無理なことが多いようです。やはり本来の自己のスケジュールを基本にして学習を進めて行った方が初心者には良いような気もします。

そして次こそは(縁起もないですが)、答練のペースも念頭に入れたスケジュールを立て、本番直前に全科程をピタリと終えるというのが理想なのですが、言うは易くでなかなかうまく行かないものです。

とにかく、今の時期、風邪などひかぬよう特にご留意下さい。

平成19年2月6日 江見 務


【建築基準法上の接道義務と隣地通行権】

受験参考書は、専ら受験という観点から、出題可能性の低い問題はカットしたり、簡略な説明に止めたりしてしまいます。しかし執筆の過程で、受験上はC〜Dランクでも、学問上はきわめて重要なものや現実は非常にシビア(Severe)な争いだろうなと思う問題に出くわすことが多くあります。これはそのような問題の一つです。

1.問題の所在(最昭和37.3.15)
建築基準法では防災の観点から、建築物の敷地が2メートル以上接していることが要求されています(建基43‐T)。これを「接道義務」とか「接道要件」と呼んでおり、この要件を充たさないと建築確認がおりず、家を建てることができません。

この法律上の要件は、建築基準法により条例で変更できることになっているので、東京都では3メートル幅での接道を義務づけました。その結果、Aは建築確認が得られなかったので、Bを相手取って、不足の70センチ余りについて、隣地通行権(囲にょう地通行権)の確認を求めて訴えました。ちなみに、袋地を囲んでいる他の土地を「囲にょう地」といい、その土地を通行する権利という意味で「囲にょう地通行権」と呼びます。隣地通行権と同じ意味です。

2.一般論
一般的に、民法210条でいう「袋地」とは絶対的袋地でなくても、土地の利用に適した通路が公道との間に存在しない場合を指すとされ、たとえ通路があっても、土地の用途に応じた利用ができなければなお袋地とされ(相対的袋地)、隣地通行権が認められるとされています。

判例もこの立場から、公道に通じる山道があっても、傾斜が急で山林から採取した石材を搬出することが困難な事情がある場合(大S13.6.7)や、あぜ道が公道に通じていても肥料や収穫物の運搬等に支障がある場合(大T3.8.10)などに隣地通行権を認めています。

この判例の考え方からすると、宅地が宅地としての用途に利用できなければ意味がないのでAの主張が認められても良さそうですが……。

3.判例の結論
ところが、判例はAの主張を認めませんでした(最S37.3.15)。建築基準法上の接道要件と袋地通行権の規定とは「その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさないとの一事をもって……隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない」と言うのです。この立場は再度最平成11.7.13でも確認されています。

4.学説の立場
多数説はこのような場合に隣地通行権を認めます。宅地が建築基準法によって宅地として利用できないということは「家が建たない土地は、資源の死蔵である」と言ったり(石田喜・口述物権法)、建築基準法と囲繞地通行権とを全く別個の問題として分離して考えることは疑問であるとし、「それでは袋地の建築用地としての効用がなくなってしまう」と言ったり(野村・注釈民法(7))しています。

もっとも建築不可能を承知で袋地を買った場合には、その後になって建築基準法上の通路拡幅を求めることは認められない(山畠・私法と建築基準法(土地問題双書))というやや厳しい意見もないではありません。さて皆さんはどう考えますか?

平成18年10月16日 江見 務


【これから本格的に学習に入る皆様へ】

1.平成18年度の本試験も終了し、暑い夏も終わろうとしている今頃が、そろそろ本格的な受験勉強の開始の頃だと思います(もう始めている人はそれでけっこうです)。
 私が企画した1日マスターシリーズは、誰でもが勉学の条件にかかわりなく法律学習に入れ、またできるだけ労少なく合格して頂いて、その後の精力を社会活動に注いで頂ければという願いで始めたものでした。格差社会が固定化してしまうと、いわゆる下流社会の人は教育の機会が奪われ、学問によって世に出ることさえ不可能となってしまいます。そのような社会、教育の機会均等が奪われた社会を私はアンフェアな社会だと考え、誰でもが学習でき、効率よく合格できる機会が得られるようにと開始したのが本シリーズです。

2.そのためには、出来る限り少数のページ数で本試験に対応できることが理想です。なかなか容易なことではありません。しかし、私のこの理想が実現されているか否かは現実の検証が私自身にも欠かせません。今後の執筆態度にもかかわってくるからです。
 平成18年度の本試験で見る限り、憲法は100ページにも満たない冊子ですが、問1の衆議院の解散権の根拠は、争点として正面から採り上げており、また問2の財政についてもすべて本書でカバーしています。また、民法では不法行為から出題されていますが、この学説の争いも、まさに私が「試験に出る学者の議論」だとして民法Y(事務管理・不当利得・不法行為)で正面から採り上げている争点でした(法律上、学者間で議論されている問題を「争点」、論述式試験ではそこが論ずべき点であるという意味で「論点」といったりします。どちらもほぼ同じことを指しています)。ちなみに民法Yは本文わずか34ページしかありません。
 会社法もT、U合わせて200ページ余りですが、会社の分野に関しては全問正解が可能な内容となっています。

3.ネット販売の性質上、購入者以外の人が現物を手に取って確認して頂けないのが残念なのですが、購入者の方は是非読まれる際に併行して確認してみて下さい。

4.私は受験勉強などはできるだけ早く切り上げた方が良いと基本的に考えています。受験のための勉強はできるだけ早く切り上げて、合格後の各人の専門分野(登記でもマンション、担保など自然に専門分化してゆく傾向があるのは医者などと同様です)へ進出してもらい、その専門分野の勉強をしてもらった方がその人のためにも社会のためにも有用だと考えているからです。その一助となるために、これからもより一層的中率を上げていきたいと思っています。
 私のこのような趣意に賛同される方、1日マスターシリーズで勉強を開始、また勉強の総仕上げを効率的に図ってみませんか。賛同される方を募っています。

平成18年8月15日 江見 務


【私の会社法の学び方】

1.民法と違って、会社法は嫌いだという人が多いようです。確かに、我々の日常生活上の諸問題を取り扱う民法と違って会社法は会社をめぐる法律問題を取り扱っていますから日常生活とはなじみが薄くそれだけにとっつきにくいようです。
会社という組織に身を置いたことのある社会人と異なり、会社との接点が少ない若い人達にはどうも会社のイメージがつかみにくく、特にその傾向が強いようです。私の青年時代も確かにそうでした。それでも会社の組織や構造が解らなければ、次に学ぶ商業登記法の勉強がうまく行きません。また都市部で司法書士を開業しようとする者が商業登記をやらないのでは、少なくとも仕事の3分の1は放棄することになってしまいます。

2.学びの初めは、何でも興味ですから、まずは会社法に興味を持つことが肝心です。日経新聞などの経済事件や会社の公告などに注意しましょう。企業買収の事件だとか、最近はずいぶん少なくなりましたが総会屋の事件などをよく目にする筈です。また新聞にはしょっちゅう基準日の公告だとか、合併の公告だとかが載っています。あれはどういう意味で、いったい何のためにやっているのでしょうか。それらの答えはみな会社法の中にあります。会社法を学ぶだけで自分の視野がひとつ広がるのですから、それは素晴らしいことではありませんか。

3.私もかつて商法の分野にあまり興味が持てなかった時代がありました。憲法は小中学校の時代から教えられていた訳だし(それと専門的に始めた憲法とはずいぶん違ったものでしたが)、また刑法もとても興味深くやれましたが、商法だけはそうでもなかったのです。
そこで若い私は考えました。自分が株主だったら、自分が取締役だったら、どうやって自分の利益を守ろうか…。そういう空想をしながら会社法を学んでいったのです。それでけっこう楽しく学ぶことができるようになりました。こんな単純な方法がすべての人に当てはまるとも思いませんが、会社法に興味が持てない若い人達にはけっこう有効なのではないかと思っています。自分が取締役になったとして、会社が乗っ取られそうになったらどうするか、総会屋対策はどうするか、業績不振な事業部門があって会社全体の足を引っ張ったらどうするか… それを法律的な面から解決しようとしてみるのです。
会社法を始めたばかりの人にはなかなかその解決方法は見い出しにくいかも知れませんが、ある程度やっているといろいろ気づくことも出て来るものです。「あっ、この方法は使えるナ」と。ここまで来たら、司法書士受験は少し超えてしまいますが、会社判例百選などで具体的な判例にあたってみたらどうでしょう。案外みんなの勉強レベルで実際の事件も争われていることが解るでしょう。ただし、試験合格までは深入りは禁物です。

平成18年7月17日 江見 務


【会社法は生きている(買収防衛策)】

1.「会社法」などというと若い人達、とりわけ学生にとってはなんとなく会社自体のイメージがつかみにくいこともあって、親近感が薄いようです。
我国では従来、企業経営といっても、年功序列のおじさん達が他の会社のおじさん達と馴れ合って、平和に経営をやっている感がありました。経済団体というのは、そういう人達の一つのサロンなのでしょう。
しかし最近、ほとんどアメリカナイズされた意識の若者達が現われ、ITやらファンドやらで得た潤沢な資金を背景に、特定の会社の株を買いあさり始めました。一般に、経営者の意思に反して企業を買収することを「敵対的買収」といいますが、従来我国のちゃんとした大企業についてはあまりなかったことです。

2.このままでは会社が若者達に乗っ取られてしまいます。おじさん達は慌てました。ルール破りの若者達の出現で、ほとんど世代間闘争のようになってしまいました。また外国資本の乗っ取りも心配です。対策が考えられなければなりません。これが今話題の「買収防衛策」です。いろいろ考えられているようですが、けっこう有名な会社で株式の上場を廃止した会社もあります。株式を株式市場で売買しているから買い集められるのであって、もう市場での公開売買を止めてしまおうという訳です。しかしこの方法は大会社では急には採用できません。
そこで「拒否権付種類株式」という特殊な株式を発行しておいてはどうかということも考えられています。これは会社の合併のような重要な株主総会決議があった場合に、さらにその種類株主総会の決議がなければならないとする株式のことをいいます(会社法108条、323条で規定されています)。この株式を発行しておいて、敵対的買収者の株主総会決議があったときには、その種類株主総会で否決して拒否しようという訳です。そこからこの種類の株式を「拒否権付種類株式」と呼びます。経営者側から見ればまさに救いの神のような株式なので「黄金株」と呼んだりもします。
しかし、こんな特権的な株式を発行している会社の株など、多少経営参加に興味のある者なら買いたくないでしょう。

3.今けっこう多くの大企業が考えているのは、「新株予約権」を発行しておくという方法のようです。
これは敵対的買収者が会社の株を買い集めた時に、あらかじめ味方に発行しておいた新株予約権を行使させ、株主になってもらって敵方の持株比率を薄めようというやり方です。例のライブドアがニッポン放送の株を大量に買い占めたときに、急遽ニッポン放送が新株予約権をフジTVなどのグループ企業に発行してライブドア側の持株比率を薄めてしまおうとした事件がありました。これはあとになって急にそれをやろうとしたため、不公正だということで発行が差止められてしまいました(東京高裁決平成17.3.23)。そこであらかじめそのような者が現われた時に備えて新株予約権を発行しておこうというのです。

4.会社法を学ぶと、このような事情が理解できるようになり、新聞やTVを法律的な側面から興味を持って見ることができます。一見無味乾燥に見える会社法も意外にダイナミックに生きていることが解るでしょう。

平成18年5月30日 江見 務


【新会社法予告】

1.平成11年から平成16年まで、毎年改正をくり返し、つぎはぎだらけになっていた商法「第二編 会社」の部分が全面改正され、遂に平成17年に「会社法」として単行法にまとめられました。今年の5月1日からもう施行されています。

2.新会社法は全部で979条、あの民法典(全1044条)に匹敵する膨大な法典です。改正にあたっては、一般人に読み易く、理解し易くという意図で、文章が漢字・ひらがなの口語文に改められ(商法は明治以来、漢字・カタカナの文語体でした)、また準用をできるだけ少なくしたために、条文が長い文章になってしまいました。従来の文語調の条文(比較的簡潔な表現が可能です)に慣れた者にとっては、かえって全文の把握が困難となった気がしないでもありません。

3.友人の弁護士が「我々が学生の頃は会社法はまだ学生にも理解できるものであったが、今の会社法は法律実務家にとっても理解は容易ではない」と嘆いておりましたが、世の中が複雑になっている以上、已むを得ないことなのでしょうか。
それでも会社法の本がベストセラーになっていると言います。およそ法律の本が、しかも会社法がベストセラーになるなど、一昔前には考えられもしなかったことです。多くはビジネスマンが購入した結果だと思われますが、いかに今回の会社法改正が一般の人にも広い影響を与えているかが解ります。

4.膨大な法文となった会社法の全体をできるだけ水準を落とさずに、一挙に把握できる本ができないものだろうか。今回1日マスター新会社法でこの一見両立し難い企画にチャレンジしてみることにしました。さすがに一日で全会社法マスターは難しく、二分冊を余儀なくされてしまいました。いささか看板に偽りありとの感がないでもないですが、初心者が素早く全体を理解でき、また既習者が一挙に総まとめとしても利用できるものを企画しています。「会社法、わけわっかんねえ」と言っていた受験生のA君、期待していて下さい。本書はある程度専門的な知識を身につけたいと思われるビジネスマンの方々のニーズにもお応えできるような内容になっております。

平成18年5月15日 江見 務

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